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ヘッジファンド投資家の間で勢いを増すESG

2021年4月28日

昨今、多種多様な投資家の間で、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素に着目した投資が勢いを増している。そのため、ヘッジファンドへの資産配分に当たって、ESGに一段と重点を置く投資家が増えていることに意外感はない。

当社の戦略コンサルティング・チームがヘッジファンド投資家を対象に実施した最新の調査では、回答者の22%が「ヘッジファンドへの資産配分の決定において、ESGを重視している」と答えた。この割合は前年調査の2倍以上である。また、回答者の40%を占める欧州、中東、アフリカ(EMEA)地域の投資家のすべてが、ヘッジファンドへの資産配分にESGを統合することを検討しているとし、一方、プライベート・バンクとファンド・オブ・ヘッジファンズ(FoHF)についても、ESGを重視する割合が機関投資家と比べて2倍以上となった。特筆すべき点として、運用資産残高が大きい投資家ほど、ヘッジファンドへの資産配分に際し、ESG関連の金融商品を優先的に選ぶ傾向にあることもうかがえた。

投資家がヘッジファンド運用会社を選定する際に、ESGが最も重要な決定要素なのか、多くの要素の一つに過ぎないのかは断定できないものの、調査結果から、投資家の意思決定プロセスにおいて、ESGが重要な意味合いを持つことが示唆された。投資家は次のような認識を持つとみられる。投資戦略にESG要素を組み込んだヘッジファンドは、株式アクティビズム、独自のスクリーニング、ロング・ショート戦略、あるいは伝統的なポートフォリオでは必ずしも主流ではなかったその他手段を駆使し、結果的にリターンと企業行動の両面で大きく変化する可能性がある、というものだ。

以下では3つの論点を挙げ、このトレンドの背景に何があるのかを考察し、それがヘッジファンド運用会社や投資家にとってどんな意味を持つのかを論じる。

1. 投資家の意向と価値観がESGへの関心の源泉

では、ヘッジファンド投資家の間でESGを重視する動きが強まっている背景には何があるのか。戦略コンサルティング・チームの調査では、ESGに関心を寄せる最大の要因について、回答者の70%近くが「価値観の一致」を挙げ、僅差で「投資家の意向」が続いた。

現在、プライベート・バンクやファンド・オブ・ヘッジファンズでは、ESG関連のヘッジファンド戦略への投資を一段と活発化させている。その最大の要因として、これらヘッジファンド投資家が、自社の価値観や顧客投資家の意向に沿った資産配分を追求していることがある。

ヘッジファンド投資家がESGを考慮した資産配分を行う動機
縦軸:動機に挙げた投資家の割合(%)

2. 運用プロセスにESGが統合されるのを望む投資家

投資家は、ヘッジファンドへの資産配分決定に関して、様々な要素にESGが統合されるのを期待している。具体的には、第1に、ESGを主軸として資産配分を判断するヘッジファンド投資家は、ヘッジファンドの運用プロセス自体にESGを組み込むべきとの考えを示した。そして、このプロセスが最も効果的に機能するのはどのようなケースかについては、調査に回答した投資家の半数近くが「ヘッジファンドが投資アイデアを評価する際に、外部データのみに依拠するのではなく、独自の評価システムを構築する場合」と答えている。

第2に、投資家の大多数が、ヘッジファンドはESGの3要素(環境・社会・ガバナンス)すべてを均等に重視することが望ましいと考えている。ただし、現状では、環境(E)に焦点が偏っているケースが少なくない。そうした投資家の割合は米国で20%であり、EMEA地域に至っては約30%に及ぶ。

最後に、どのタイプのヘッジファンド戦略が最も効果的にESGを統合できるかについて、投資家は明確な考えを持っている。最も支持されたのは株式ロング・ショート戦略(94%)で、アクティビスト戦略(84%)とクレジット・ロング・ショート戦略(66%)がそれに続いた。

幅広いヘッジファンド戦略にESGを統合可能だと投資家は確信
縦軸:当該戦略にESGが統合可能と考える投資家の割合(%)

3. ヘッジファンドが新たに設定するESG関連商品への投資にも意欲的な投資家

ESGの視点で投資を行う場合、ポートフォリオの構築に微妙な変化が生じる。投資家は従来型のリスク・リターン配分の仕組みに加え、ESGをどのように運用プロセスに組み込むべきかについても方針を定めていることが多い。もっとも、既存商品の中にそうした方針に沿ったものがない可能性があるため、多くのESG投資家は、カスタマイズされたヘッジファンド商品に関心を示している。

調査において、ESGに関心のある投資家の60%が、「ヘッジファンドが新たに設定するESG関連商品(知名度の高いヘッジファンドが運用する商品や、自社にとって最適な商品)への投資に前向き」だと回答した。特に強い意欲を示したのが、ファンド・オブ・ヘッジファンズ(78%が前向きと回答)とEMEA地域の投資家(同75%)だ。新たなESG商品への投資に前向きな投資家のうち、3分の1は、ヘッジファンドに20億米ドル以上の資金を配分している。

幅広いヘッジファンド投資家が、新たに設定されるESG関連商品への投資に意欲的
縦軸:ヘッジファンドが新たに設定するESG関連商品への投資に前向きな投資家の割合(%)

 

※これはバークレイズのInvestment Bank サイトに掲載された英語の記事を日本語にした参考訳です。英語版が原文ですので、これら両言語版の間に齟齬がある場合は英語版が優先します。

英語版オリジナルの記事はこちら:ESG gains traction among hedge fund investors

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