リサーチ
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【寄稿】金融政策依存症からの脱却を:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
12月30日
インフレに翻弄された2022年が終わろうとしている。「日本化」の可能性すら取り沙汰された21年央までとは対照的に、ここまで短期間にインフレが進んだ背景に関して、統一した見解は得られていない。
新型コロナウイルス感染症による景気停滞・反転、サプライチェーン(供給網)毀損による供給制約、感染拡大の「履歴」効果による行動変容などの要因が複雑に絡み合った今回のインフレは、ピークは越えつつあるが、その帰...
【寄稿】英中銀ショックは人ごとではない:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
10月7日
未曽有の緩和を続けてきた主要国の金融政策は、インフレ圧力の高進を背景に短期間で大幅な引き締め局面へと移行した。そして、この間の金融政策がもたらしたひずみが一気に露呈しつつある。
英国では新政権による大型減税などの財政拡大策に対し市場が敏感に反応、金利が急騰する一方、ポンドは大幅な調整を余儀なくされた。イングランド銀行は期間限定とはいえ金利上昇を抑えるため、国債売却を通じ量的緩和(QE)から撤退す...
【寄稿】「なんでもする」金融政策の代償:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
8月4日
主要国中央銀行による金融政策は、異例のペースで利上げを進める米国連銀を中心にタカ派化が加速している。政策転換に至るまでの過剰ともいえる金融緩和を正当化すべく、頻繁に用いられた表現の一つが「必要なことは何でもする(Do whatever it takes)」だ。確かに今回の局面でも、中銀が「最後の一人」として控えていることで得られた安心感は大きかった。
ただし、「何でもする」結果の代償が大きい点も...
【寄稿】景気後退時の緩和余地に格差:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
6月9日
食料・エネルギー価格上昇を起点とした世界的なインフレは、やや鈍化の兆しがみられるものの、沈静化していない。主要国の中銀がタカ派への急転換を図った米国連銀を筆頭に金融引き締めを加速するなか、経済状況に応じて各国の金融政策格差が拡大している。米国では、2023年初にも政策金利が中立水準へと回帰するシナリオが既に織り込まれている。一方日本では長短金利操作(YCC)の修正までは見えても、本格的な金融引き...
【寄稿】経常赤字より「日本売り」回避を:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
4月7日
リスク回避の局面で、本来安全通貨としての機能を発揮するはずだった円は、地政学リスクの高まりにもかかわらず対ドルで大幅に下落した。実質実効円レートも50年来の水準まで低下している。今回の円安局面では、供給面の制約などにより輸出を通じた景気・物価浮揚効果が限定される一方、円建て輸入価格の急騰で交易条件が大幅な悪化を示すなど、円安はそのデメリットがメリットを大きく上回るもろ刃の剣と化している。
足元の...
【寄稿】今こそ賃上げで望ましいインフレを:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
1月27日
2022年の主要テーマの一つはインフレであろう。欧米主要国の物価は、市場予測を大幅に上回るペースで上昇している。主要経済指標における予測値からの乖離(かいり)を基に算出されるサプライズ指数は、生産などの景気関連指標では既に下振れの局面へと移行しつつあるにもかかわらず、消費者物価指数(CPI)上昇率を中心とした物価関連指標は、日本を含めほぼ全ての国・地域でプラス幅を拡大している。
想定外のインフレ加…
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【寄稿】適切な動機づけで政策に持続性を:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
12月2日
経済学初学者向けの標準的な教科書として、米国を中心に幅広く用いられているグレゴリー・マンキューの「入門経済学」は、主にニューケインジアンの立場から、伝統的な経済学における基本的な考え方を「十大原理」として提示することから始まる。
十大原理は今、様々な批判に直面している。例えば「交易(取引)は全ての人々をより豊かにする(第5原理)」は、いわゆる「比較優位性の原則」だが、現状は先進国と新興国の所得格差…
【寄稿】コロナの「履歴効果」を克服するには:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
9月2日
新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした、世界景気に対する未曽有の需要ショックは、変異型により再び増幅しつつある。ショックが長期化し、深度が深まるにつれ、景気循環が正常化する時期が遅れるだけでなく、潜在成長率の低下などその後遺症が様々なかたちで中長期的に残るリスクも高まっている。
需要ショックの影響が景気循環にとどまらず、供給構造の変化を通じて中長期的な経済成長にまで波及する現象を「履歴効果(ヒス…
【寄稿】「連銀に逆らうな」は有効か:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
6月24日
金融市場における現下の最大の関心事は、米国を中心としたインフレおよび金融政策だ。デフレ懸念がまん延した昨年とは対照的に、資源価格高騰、サプライチェーン(供給網)上の制約、財政拡大と一体化した金融緩和による高圧経済など、インフレを巡る議論には事欠かない。
「柔軟な平均インフレ率ターゲット(FAIT)」を基軸に金融緩和を続けてきた米国連銀(FED)も、米連邦公開市場委員会(FOMC)でよりタカ派的な方…
【バークレイズ・リサーチレポート】人々が旅をしなくなった世界:新型コロナウイルスの代償
2021年5月26日
かつてはクレジットカードとパスポートさえ持っていれば、インターネットで簡単にフライトを予約し、異国情緒あふれた土地に気軽に旅することができた。そうした状況は、新型コロナウイルスにより終わりを迎えた。
【バークレイズ・リサーチレポート】ヘッジファンド投資家の間で勢いを増すESG
2021年4月28日
昨今、多種多様な投資家の間で、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素に着目した投資が勢いを増している。そのため、ヘッジファンドへの資産配分に当たって、ESGに一段と重点を置く投資家が増えていることに意外感はない。
【寄稿】新興国債務、持続性に懸念:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
4月15日
年初における市場予測から最も大きくかい離しているのが為替レート、中でもドルの動きだろう。市場では長期的なドル高トレンドが終息、下落傾向へ転じるとの見方が圧倒的に多かった。
実際には、ドルは年初以降ほぼ一貫して上昇、日本円、スイスフランといった「安全通貨」にとどまらず、他の主要国通貨、さらには新興国通貨を含む景気感応度が高い通貨群に対しても、その耐久性を遺憾なく発揮している。
市場がドルのトレンドを…
【バークレイズ・リサーチレポート】2021年4-6月期世界経済見通し:万事順調
2021年3月25日
2021年は強気なムードで幕を開けた。当社のリサーチアナリストは年初時点で、世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックによる打撃から回復し始めていることを踏まえ、リスク資産がアウトパフォームし、債券利回りは徐々に上昇すると予想した。3ヵ月が経過した今も、世界経済の回復基調は崩れていない。当社アナリストが足元のマクロ経済情勢をリサーチした結果、以下3つの主要テーマが浮かび上がった。
【バークレイズ・リサーチレポート】2021年のヘッジファンド見通し:資金流入と資産配分は増加傾向
2021年2月24日
当社の戦略コンサルティング・チームは1年前のレポートで、ヘッジファンド投資の機運が醸成されつつあり、新たな投資機会を享受できる時代の幕開けだと述べた。当該レポートは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を受けて、株式市場が過去最大級の暴落に見舞われる前に発行したものだ。
【寄稿】ミレニアル世代が閉塞感を打破:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
1月29日
新型コロナウイルスの猛威が続くなか、世界景気は着実に回復傾向をたどっている。バークレイズ証券では2021年、22年の世界国内総生産(GDP)伸び率をそれぞれ5.9%(20年実績見通しは3.6%減)、4.5%と大幅なプラス成長への着地を予想している。回復を先導するのは20年に主要国で唯一プラス成長を達成した中国(21年予測は8.4%)に加え、バイデン新政権の下、大幅な追加財政拡大策の実施が見込まれる…
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【寄稿】制御可能な財政インフレへの道程:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
11月20日
新型コロナウイルスの感染再拡大を機に欧州を中心に景気の二番底リスクが台頭、追加的な財政拡大策に対する期待が高まっている。米国でも新政権の下、一時頓挫していた財政拡大策を巡る議論が再開される見通しだ。ただ、未曽有の財政拡大とこれを「量的緩和(QE)」を通じて受動的に支え続ける金融緩和の組み合わせが最終的に何をもたらすのか、その影響に対する懸念が強まりつつある。
市場では依然、デフレに対する警戒感とは…
【寄稿】「財政の崖」今、そこにある危機:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
9月11日
コロナ禍は収束の兆しを示すに至っていないが、景気は経済活動再開に伴い回復傾向をたどりつつある。一連の景気先行指標は以前の水準を回復しつつあるほか、主要国の7~9月期国内総生産(GDP)は自粛期からの反動もあって、2ケタ台の伸び率に着地すると見込まれている。
一方、主要経済指標に対する市場の平均的な予想と実績値のかい離を示したサプライズ指数も「ポジティブ」へと大きく傾斜している。従来の株、商品、高利…
【寄稿】ナッジが支える「賢い支出」:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
6月26日
コロナ禍に伴う経済封鎖が解除されるにつれ、経済活動も緩やかに回復へと向かいつつある。日本を含む主要国では世界全体で11兆ドル規模にも及ぶ需要損失を補うべく、財政拡大策を矢継ぎ早に導入した。その規模は、対国内総生産(GDP)比で日本の43%(うち真水は12%)を筆頭に、20カ国・地域(G20)平均で13%(同7%)に達しているほか、米国ではさらなる財政拡大も模索されている。
政府債務残高の対GDP比…
【寄稿】コロナ禍で広がる「日本化」現象:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
4月10日
新型コロナウイルス感染拡大に対しては、不確実性が極めて高いだけに適切な政策処方箋を描きにくい状況が続いている。この間金融市場は、リスク量圧縮に伴うポジション解消に始まり、ドル現金を中心とした極端な安全資産選好を含む「流動性の呪い」とでも称すべき局面へと至った。その後、主要中央銀行による未曽有の流動性供給強化を契機に市場が正常化へと向かうにつれ、焦点はようやく経済ファンダメンタルズへと移行しつつある…
【寄稿】「超平行」が揺らぐとき:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
1月24日
金融市場は構造的な低インフレ環境下での「超」金融緩和が継続するなか、過去に類をみない低変動率で推移している。主要国の長期金利は低位安定、為替相場も「超平行(非ユークリッド幾何学における平行でもなく交差もしない2線の関係性)」と称すべき定常状態へと収れんしつつある。2020年中にも「超平行」に潜む不均衡が是正され、金融市場における変動率が正常化へと向かう場合、何が契機となるのだろうか。
第1は、割高…
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【寄稿】臨界点の金融政策には「アート」:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
11月8日
主要国の金融政策は「臨界点」に達しつつある。米連邦準備理事会(FRB)はなお、ゼロ金利政策への復帰といった選択肢を残しているが、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和を巡る不協和音に加え、緩和効果がそれ以下で反転するとされる「リバーサルレート」に金利水準が接近しているとの共通認識もあり、金融政策の方向性を巡る不確実性が増している。
リバーサルレートの水準が欧州に比べ相対的に高いとされる日本では、金融緩和…
【寄稿】「周回遅れの先頭」走る日本の役割:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
8月9日
海外投資家と日本を巡る議論を交わす際、しばしば「周回遅れの先頭」といった表現が登場する。デフレ傾向が定着するなか、いち早く先進国に先駆けて導入された異次元金融緩和の効果も持続性に乏しく、政府債務の膨張、日本銀行のバランスシートの肥大化といった課題を残す結果に終わっている。一方、今回の「競争的」利下げ局面においても、日銀は主要中央銀行の後じんを拝しつつある。
海外の主要な政策当局は自国が同様のわなに陥ること…
【寄稿】日本株復活へ 資本で労働代替を:バークレイズ証券調査部長 山川哲史
日本経済新聞 『エコノミスト360°視点』
5月17日
日本株のパフォーマンスはなぜ他の主要国に劣後し続けてきたのだろうか。従来は日銀の上場投資信託(ETF)買い入れで安定化した需給、銀行株を中心とした割安感、企業の自社株買いを通じた株主還元策などへの期待が強かった。だが実際には、米国株上昇をけん引してきたFAANGのようなプラットフォーム企業の不在もあり、海外投資家の関心は後退の一途をたどっている。
さらに景気面からも日本株への逆風が強まりつつある。米中…